モロッコ遊牧民探訪記

遊牧民との生活。ロバとの旅の記録

ツーリズムとノマド

朝、イハルフが放牧に出かけてひと段落ついたころ、アハマドがやおらにテントの中を掃除し始めた。地面の上の乱れた布を敷き直し、ごみを遠くに投げ捨てる。「ツーリストがやってくる」とアハマッドは言った。 午前10時10分、ベルベル人のガイドに率いら…

イハルフの思いやり

朝テントから出ると、イハルフがいないことに気づき、私は狼狽した。午前七時。この日、私はイハルフとスーク(青空市場)に出かける約束をしていた。私はたき火で暖をとっているアハマドに尋ねた。 「イハルフはどこ?」 「イハルフはもう出ていった。コー…

アハマドの放牧

73歳のアハマドの遊牧は、とてものんびりとしたものだ。歩く時間よりも、横になっている時間の方が長い。1日の移動距離は5キロくらい。少し歩いてはうたた寝し、お茶を飲み、また横になる、というのが彼のスタイルである。その代わり、孫のアビシャ(6…

ノマドQ&A

村に下りてきたとき、私の噂を聞いた日本人らから「ノマドってどんな人たち?」「普段何してるの?」などと聞かれることが多い。中には別の宿からわざわざ私を訪ねてくれる人もいる。こうした反応は、意外だった。というのも、私がやっているのは、ほとんど…

ノマドの食事

タジンとパン、スープ。特別な日を除くと、この3つがノマドの日常メニューだ。私が滞在したイハルフ一家の食事の様子は以下のようなものだった。 朝:スープ、パン 昼:パン、ナツメヤシの実=放牧組 タジン、パン=待機組 夜:タジン、パン、(スープ)=…

遊牧初日(後半)

パンとナツメヤシの実の昼食を食べ終え、13時45分出発。少し登ると、平らな広い場所に出た。こぶし大の岩がごろごろ転がっている。イハルフは横になってうとうとし始めた。私もそれにならう。周囲の岩山は地肌がむき出しだから、眺めていると雲の動きが…

ベルベル語辞典②例文編

このページでは、私がノマドから直接聞いた日常的な言葉を掲載します。私の備忘録なので、ほかの人には参考にならないと思う。単語や基本的な日常会話はベルベル語辞典へ。 ※このページは随時更新します。 日常会話 ・アンドゥ アヌゴン さあ寝よう ・ノハル…

遊牧初日(前半)

ノマド生活2日目 日が昇ったのは午前8時を過ぎていた。ここは四方が山に囲まれているため、太陽の出が遅いのだ。モロッコはこの時期、陽が出ればうっすらと汗をかくほどだが、なければジャケットを着ても寒い。テントから出ると、既に全てのヒツジが外に出…

家族を照らす炎

ノマドのもとで2泊し、山を下りてきた。食料の買い出しのためだ。初登りの日はテントや毛布、水を運ぶので手一杯で食料を十分に運び込めなかった。今日(11日)はトドラの村で一泊。明日また山に戻る。 今朝、お世話になっているノマド一家の主人イハルフ(…

今日からノマド生活

Todgha Gorge(トドラ渓谷) この旅の目的地の一つであるトドラ渓谷には、12月30日に着いた。宿は去年も長居させていただいた「Maison D'hote la Fleur」。日本人女性である典子さんとベルベル人青年ユセフが営む宿だ。屋上にテントを張らせてもらい、毎…

元ノマドの話

12、13日目 Rish→Imilchil(イミルシル)→Tamtattouchte(タムタトゥーシュ) 約1年ぶりにイミルシルに帰ってきた。イミルシルは標高2500㍍、モロッコで最も標高の高い「町」だ。私は早速、前回宿泊した宿「GITE DETAPE」に向かった。主人のゼイは、私…

モロッコ警察

11日目 Zeida近郊→Rish 朝、テントを片付けているとき、受付の男から声をかけられた。男は、サムスン製の携帯電話を私に差し出した。 「昨日、モロッコの電話番号を持っていないと言っていただろう。今後、警察と連絡を取るためにも持っていくといい」 「…

アトラスの砂漠

10日目 Imouzzer Marmoucha→Boulemane→Zeida近郊 ホテルの前の通りは、朝から人であふれていた。町の中心の広場で、週1回の市が立っていたのだ。野菜をはじめ衣料、日用品、靴、寝具、大工用品など、生活に必要なすべてのものが、このマーケットで手に入…

乗り合いバン

9日目 Ighzrane→Imouzzer Marmoucha この日2つの目の峠にたどり着いたとき、後ろから1台の乗り合いバンが追いついてきた。乗せてもらおうかなという考えが一瞬、浮かんだ。今日はすでに20キロを走っているが、この辺りは人の匂いがまるでしない。山は、…

羊飼いの家

8日目 Bab Boudir→Ighzrane 峠を越えると、高原になった。今日も雲一つなく日差しが暑い。男が道端に寝転んでいた。そばに大きな荷物が置かれている。乗り合いバンを待っているのだ。アトラス山中では、乗り合いバンが村と村を結んでいる。いつ来るか分から…

ミドル・アトラスへ

7日目 Taza近郊→Bab Boudir 朝、テントから出ると、あたりは霜が下りていた。トマトを水で洗うと、手がかじかむ。あまりに寒いので、テントに戻って寝袋にくるまり、本を読みながら太陽が昇ってくるのを待った。 前日にTazaを出発した私は、ミドル・アトラ…

ベルベル語辞典

このページは私がベルベル人に直接聞き取りして採集したベルベル語辞典(タシュリヒート)です。基本的には、実際に通じるか複数人に確認した後に掲載しています。一部アラビア語も混じっています(※印はアラビア語) 2019.1.27更新 ★2018.10.8追記 「自分に…

自転車を買う

3日目 ウジダ(Oujda) 寒さで目が覚めた。午前8時、気温は5度。昨晩、パリからウジダに飛んできた私は、空港の前に広がる荒野にテントを張り、一晩を明かした。明け方に雨が降ったらしく、フライシートが濡れていた。300メートル先にある駐車場の門番…

ロストバゲッジ@パリ

1-2日目 パリ パリで早速、ロストバゲッジに遭った。通算4回目。 航空会社は中国国際航空。関空発北京経由でパリには午前7時前に到着した。私はこれまで乗継便を利用した場合、50%の確率でロストバゲッジに遭っている。そのため入国審査を終えてベル…

出発当日

いよいよ今日出発します。心境としては、別に興奮しているわけでもなく、いつもと特に変わらない。家の台所のみかんを見て、いよいよモロッコに行くんだなという実感が強まった。みかんは私のモロッコのイメージと深く結びついている。私は大のみかん好きで…

自転車を売る⑪初めてのモロッコ

マラケシュに戻ってきた私には、やるべきことが一つあった。自転車の処分だ。私は既にポーランド行きの格安航空券を買っていた。本当は自転車を持ち込めればいいが、1万円以上かかるので、それなら現地で買い直したほうがいい(実際、このあとセルビアで中…

もうひとつのアトラス越え⑩初めてのモロッコ

三度トドラ渓谷に戻ってきた私は、再びマラケシュを目指すことにした。ビザ無しで滞在できる3カ月の期限を迎えるので、モロッコから出なければならない。既にマラケシュからマドリード経由ポーランド行きの航空券は買った。マラケシュに戻るには、もう一度…

イミルシルの湖畔で⑨初めてのモロッコ

青い。というのが、イミルシル湖を見たときの最初の印象だった。標高2600㍍から見る空は薄く、周りの山に色がない分、湖の青さが際立っていた。風もなく、無音だった。おしりをふりふりさせて泳いでいる鴨がいなければ、ここが地球であることを忘れてし…

出発は17日

今日、モロッコ行きの航空券を取った。その瞬間、明後日17日に出国し、来年3月18日に帰国することが決まった。 チケットを取るのがぎりぎりになった理由の一つは、片道券か往復券かどちらにするべきか最後まで決められなかったからだ。片道の方が気が楽…

平穏な日々⑧初めてのモロッコ

再びトドラ渓谷に戻ってきた私は、ここで2週間過ごした。初めて来たときはまだ咲き始めだったアーモンドの花は満開になっていた。アーモンドの花はサクラによく似ていて、誰かがそう教えてくれなければ、日本人なら「こんなところにサクラが咲くのか」と驚…

初めてのモロッコ⑦アトラスの化石売り

モロッコを南北に分断するアトラス山脈。北側のマラケシュやフェズといった大都市を「城壁と迷宮の世界」とすれば、南側の地域は「砂漠とオアシスの世界」だ。モロッコ人はよく「アトラスを越える」という言葉を使うが、それはつまり、北と南を分ける大きな…

初めてのモロッコ⑥辿り着いたフナ広場

マラケシュの中心にある「ジャマ・エル・フナ広場」。モロッコで最も騒がしいといわれるこの場所も、日中はオレンジジュースの屋台が出ているくらいで、ただのだだっぴろい空間だった。400㍍四方の空間の一画に、蛇使いの老人がいた。私は早速、その前に…

初めてのモロッコ⑤エッサウィラのたこ焼き屋

「たこ焼」と書かれた赤い提灯が風に揺れていた。 私はそのとき、大西洋岸の港町エッサウィラにいた。1月にあって昼間の気温は20度を超えるリゾート地。私はしばらくこの町に滞在することに決めていた。 たこ焼き屋は旧市街の土産物屋が並ぶ通りにぽつん…

初めてのモロッコ④峡谷地帯を歩く

その道を選んでしまったことを、私は後悔していた。なぜなら、それは道ではなく、正確に言うと干上がった川床だったからだ。大きな石がごろごろ転がった砂利道では自転車を漕ぐこともできず、押しながら歩くしかなかった。 トドラ渓谷を出発した私は、15キロ…

初めてのモロッコ③砂漠で見た恋

日本人女性は海外でモテる、とよく言われる。モロッコでは確かに真実だと思う。私はサハラ砂漠のほとりで、まさに現在進行中の恋を垣間見た。 メルズーガという小さな町でのことだ。人口は千人ほどだが、ここでは日本人女性と砂漠の民ベルベル人のカップルが…