モロッコ遊牧民探訪記

遊牧民との生活。ロバとの旅の記録

ノマドの食事

 タジンとパン、スープ。特別な日を除くと、この3つがノマドの日常メニューだ。私が滞在したイハルフ一家の食事の様子は以下のようなものだった。

 

朝:スープ、パン

昼:パン、ナツメヤシの実=放牧組

  タジン、パン=待機組

夜:タジン、パン、(スープ)=放牧組

  パン、(スープ)=待機組

※それぞれに茶(=アタイ、中国茶と砂糖を煮込んだもの)がつく。

 

 朝食は午前7時半ごろ、岩穴あるいは外の焚火を囲んでとられる。家畜の世話や放牧の準備などで忙しいため、家族全員そろって食事がとられることはほとんどない。パンは朝早く焼かれる場合と、前日の残りもので済ます場合がある。パンの中には羊の脂とパプリカの粉末が塗り込まれている。スープも昨晩作っておいたものを温め直すことが多い。

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アハマッドが作ったタジン

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火を強めたいときに酸素を送る「ラゴシ」と呼ばれる道具

 昼食は岩穴で待機しているアハマッドによって、タジンが作られる。一般的にタジンというと三角錐のふたがついた陶器が使われるが、彼らは鍋(直径23㎝、深さ10.5cm)を使う。野菜は保存がきくジャガイモ、タマネギ、ニンジン、カブ。塩とパプリカを入れ、少量のオリーブオイルと大量の水で煮込む。燃料はラバ(馬とロバの混合種)やロバの糞だ。乾燥した糞はよく熱を蓄え、3~4時間はもつ。正午前に火にかけ、3時半ごろに食事がとられる。半分を大皿に入れてアハマッドと子供たちがパンとともに食べる。半分は放牧に出ている人のために残しておく。アハマッドが放牧に出る場合、ズンノかアハマッドの2人目の妻アイシャ(普段は別の場所で暮らしている)が支度をする。一方、放牧組はパンとナツメヤシの実という簡単な食事で済ませる。

 夕食は羊たちが岩穴に戻り、飼料を与え終わった午後7時半ごろから始まる。昼のタジンを温め直し、放牧していた人が食べる。ほかの人はパンをかじるだけだ。その間、ズンノがスープ(アスキフ)を作る。水に小麦粉でとろみをつけ、少量の米と塩で味付けしただけのものだ。茶碗に一人一杯ずつよそい、半分は翌朝のために残しておく。

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タジンに入れる羊肉を解体するアハマッド(左)とファティマ

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クスクスは一枚の大皿に載せて家族みんなで食べる

 イハルフがスーク(市場)で買い出しした日は、ズンノがクスクス(粒状の米を蒸したもの)を作る。観光客がレストランで食べるクスクスは野菜がたっぷり使われるが、彼らはジャガイモと白カブしか使わない。この一家が肉を食べる機会は稀だ。イハルフは羊と山羊を合わせて約60匹持っているが、自分たちで解体するのは月に0~1匹。干し肉にしたり、串焼きにしたりして食べる。

*私の食事

 週に1~2回町に出て野菜や果物、木の実、水を買い自炊している。最初のころはジャガイモやナス、ズッキーニなどをアルミホイルで包んで焼き、塩をふって食べていた。後半はタジン鍋を持参してタジンを作った。

 

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私のタジン。アハマッドが起こした火を利用させてもらう