モロッコ遊牧民探訪記

遊牧民との生活。ロバとの旅の記録

2018-01-01から1年間の記事一覧

季節ごとの移動

ある日の放牧で、昔ノマドが住んでいた場所を通りかかった。崩れた岩がごろごろ転がっている。家畜の糞も見当たらないことから、かなり昔のテント跡らしい。イハルフは中に入っていくと、「俺たちは昔、ここで暮らしていた」と言った。 「アハマドがまだ強か…

放牧の風景

遊牧民との暮らしは、透明感に満ちていた。標高1850メートルの頂上付近にあるここでは、流れる雲と広大な青空を我がものにできる。中でも放牧の風景は美しい。私たち以外には誰もいない岩山を尾根伝いにゆっくりと歩く。お昼になると、お茶をつくり、パ…

物を大切にする

ノマドは物を大切にする。最たるものは水の扱い方だろう。たとえば、観光客が10人登ってきて、お茶を飲んでいったとき。彼らが帰ると、アハマドは10個のグラスを並べ、一つのグラスに2センチほどの水を入れてゆすぐ。その水はそのまま、次のグラスへ移…

山羊の解体

今日は山羊を解体してもらう。正午ごろ、日本人観光客が7人、山を登ってきた。前日、ティスギ村まで下りたとき、典子さんの宿に泊まっていた人たちを私が誘ったのだ。 山羊の解体に立ち会うのは、今回が2回目。1回目はタムタトゥーシュ村の別のノマド宅で…

羊のスーク

トドラ渓谷から約20キロ離れたティネリールでは、毎週木曜と土曜日にヒツジやヤギのスーク(市)が開かれる。トドラ渓谷のノマドたちは、金が必要になるとスークに行き、ヒツジやヤギを売っていくばくかの金を得る。しかし、アハマド家では当分ヒツジが売…

スークへ

前回は私の思い込みから空振りに終わったスーク(青空市場)への買い出し(そのときの記事はこちら)。起床は午前5時半。イハルフとともに岩穴でお茶とパンだけ食べ、6時半ごろ出発した。外はまだ真っ暗だ。 出発する際、イハルフは外に繋いでいたロバ4頭…

「ノマドはつらい」

ノマドにインタビューしてみようと、日本を出る前から考えていた。ノマドは自分たちの生活をどう思っているのか、彼ら自身の言葉で聞いてみたい。しかし、私はまだベルベル語が堪能ではないので、ティスギ村にすむベルベル人に通訳を頼むつもりだった。そこ…

「羊が死んだ」

朝、テントから出ると、アハマドが体育座りでじっとしているのが見えた。私が近づくと、アハマドは傍らを指をさして言った。「インモート、ウッリィ(羊が死んだ)」。見ると、二匹の子羊が横たわっていた。昨晩の冷え込みに耐えられず、死んだのだ。二匹と…

最もキツイ仕事

この日はイハルフのアゴリ採りに同行する。 アゴリは、穂はないがイネに似た植物の名前だ。羊、山羊、ロバ、ラバ、すべての家畜のエサとなる。ただし近くの山には生えていない。そのため週2回、片道2時間以上かけて採りに行く。体力的に最もきつい仕事だ。…

ノマドと女性

私がノマドの女性とかかわる機会はそう多くない。最も身近なのはイハルフの妻ズンノ(35歳)だが、1日に数回、あいさつを交わすくらいで、会話という会話はしたことがない。一度、ズンノが放牧に出かける日に、「一緒に行きたい」と言ってみたが、断られ…

ツーリズムとノマド

朝、イハルフが放牧に出かけてひと段落ついたころ、アハマドがやおらにテントの中を掃除し始めた。地面の上の乱れた布を敷き直し、ごみを遠くに投げ捨てる。「ツーリストがやってくる」とアハマッドは言った。 午前10時10分、ベルベル人のガイドに率いら…

イハルフの思いやり

朝テントから出ると、イハルフがいないことに気づき、私は狼狽した。午前七時。この日、私はイハルフとスーク(青空市場)に出かける約束をしていた。私はたき火で暖をとっているアハマドに尋ねた。 「イハルフはどこ?」 「イハルフはもう出ていった。コー…

アハマドの放牧

73歳のアハマドの遊牧は、とてものんびりとしたものだ。歩く時間よりも、横になっている時間の方が長い。1日の移動距離は5キロくらい。少し歩いてはうたた寝し、お茶を飲み、また横になる、というのが彼のスタイルである。その代わり、孫のアビシャ(6…

ノマドQ&A

村に下りてきたとき、私の噂を聞いた日本人らから「ノマドってどんな人たち?」「普段何してるの?」などと聞かれることが多い。中には別の宿からわざわざ私を訪ねてくれる人もいる。こうした反応は、意外だった。というのも、私がやっているのは、ほとんど…

ノマドの食事

タジンとパン、スープ。特別な日を除くと、この3つがノマドの日常メニューだ。私が滞在したイハルフ一家の食事の様子は以下のようなものだった。 朝:スープ、パン 昼:パン、ナツメヤシの実=放牧組 タジン、パン=待機組 夜:タジン、パン、(スープ)=…

遊牧初日(後半)

パンとナツメヤシの実の昼食を食べ終え、13時45分出発。少し登ると、平らな広い場所に出た。こぶし大の岩がごろごろ転がっている。イハルフは横になってうとうとし始めた。私もそれにならう。周囲の岩山は地肌がむき出しだから、眺めていると雲の動きが…

ベルベル語辞典②例文編

このページでは、私がノマドから直接聞いた日常的な言葉を掲載します。私の備忘録なので、ほかの人には参考にならないと思う。単語や基本的な日常会話はベルベル語辞典へ。 ※このページは随時更新します。 日常会話 ・アンドゥ アヌゴン さあ寝よう ・ノハル…

遊牧初日(前半)

ノマド生活2日目 日が昇ったのは午前8時を過ぎていた。ここは四方が山に囲まれているため、太陽の出が遅いのだ。モロッコはこの時期、陽が出ればうっすらと汗をかくほどだが、なければジャケットを着ても寒い。テントから出ると、既に全てのヒツジが外に出…

家族を照らす炎

ノマドのもとで2泊し、山を下りてきた。食料の買い出しのためだ。初登りの日はテントや毛布、水を運ぶので手一杯で食料を十分に運び込めなかった。今日(11日)はトドラの村で一泊。明日また山に戻る。 今朝、お世話になっているノマド一家の主人イハルフ(…

今日からノマド生活

Todgha Gorge(トドラ渓谷) この旅の目的地の一つであるトドラ渓谷には、12月30日に着いた。宿は去年も長居させていただいた「Maison D'hote la Fleur」。日本人女性である典子さんとベルベル人青年ユセフが営む宿だ。屋上にテントを張らせてもらい、毎…

元ノマドの話

12、13日目 Rish→Imilchil(イミルシル)→Tamtattouchte(タムタトゥーシュ) 約1年ぶりにイミルシルに帰ってきた。イミルシルは標高2500㍍、モロッコで最も標高の高い「町」だ。私は早速、前回宿泊した宿「GITE DETAPE」に向かった。主人のゼイは、私…

モロッコ警察

11日目 Zeida近郊→Rish 朝、テントを片付けているとき、受付の男から声をかけられた。男は、サムスン製の携帯電話を私に差し出した。 「昨日、モロッコの電話番号を持っていないと言っていただろう。今後、警察と連絡を取るためにも持っていくといい」 「…

アトラスの砂漠

10日目 Imouzzer Marmoucha→Boulemane→Zeida近郊 ホテルの前の通りは、朝から人であふれていた。町の中心の広場で、週1回の市が立っていたのだ。野菜をはじめ衣料、日用品、靴、寝具、大工用品など、生活に必要なすべてのものが、このマーケットで手に入…

乗り合いバン

9日目 Ighzrane→Imouzzer Marmoucha この日2つの目の峠にたどり着いたとき、後ろから1台の乗り合いバンが追いついてきた。乗せてもらおうかなという考えが一瞬、浮かんだ。今日はすでに20キロを走っているが、この辺りは人の匂いがまるでしない。山は、…