モロッコ遊牧民探訪記

遊牧民との生活。ロバとの旅の記録

アトラスの最奥部

 この冬のモロッコはやはり暖冬のようで、まだ一月末だというのに、アーモンドのピンクの花が満開に咲いていた。

 先月28日、ハンガリーブダペストからマラケシュへと飛んだ。そして私のパスポートには四つ目となる入国スタンプが押された。入国審査では、審査官から「君はベルベル人かい」と聞かれた。ベルベル人の民族衣装ジュラバを着ていたからである。周りを見渡しても、ジュラバをまとった人は一人もいない。

 初めてモロッコにきたときは自転車で全土を旅した。ニ度目は遊牧民と生活をともにした。三度目はロバと徒歩旅行した。しかし今回は特に目的があるわけではない。ただ、アトラスの空気を最後にもう一度、心ゆくまで満喫しようと思っただけである。

 マラケシュに四泊した後、バスと乗合バンを乗り継いでオートアトラスの最奥部ザオイア・アハンサル(Zaouia ahanzal)という村にやって来た。実はロバと旅してるとき、ダデス方面からロバ道を使ってこの村を通る計画を立てていた。そのためのガイドも手配していた。だが大雪のせいでジョンダルミに強く止められ、ルート変更を余儀なくされていた。そうした経緯があったので、この村の訪問はとても楽しみにしていた。

 同じベルベル人でも「まるで別の国のようだ」と言う人さえいるザオイア・アハンサル。もちろんネットには情報がない。一体どんな場所なんだろう・・・いろいろ想像が掻き立てられた。乗合バンは雪に覆われた標高2700メートルの峠を越えていく。見渡しても集落はおろか民家さえなさそうなのに、乗客はひとり、またひとりと降りていく。出発したときは満員だった乗客が残り四人になったころ、ようやく村が見えてきた。

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 村は、想像と違わぬ、美しいベルベル人の村だった。最も大きな音を発しているのは川。次にロバ、ニワトリ、小鳥、ヒツジ、ヤギ。その中で村人たちは静かに、ひっそりと暮らしていた。どの家もロバを飼っており、週一回の青空市場の日には百頭以上のロバが駆り出される。その光景は圧巻である。私はその中を歩きながら、こいつは毛並みがすげー綺麗だなとか、あいつは目ヤニがひどいなとか、いちいちチェックしていく。それがまたこの上なく楽しい。やっぱり、ロバはかわいい。もう一度、ロバと旅したいと本気で思う。