モロッコ遊牧民探訪記

遊牧民との生活。ロバとの旅の記録

トドラ到着

 無事、大西洋まで辿り着き、アトラスの旅は終わった。その後、車を何台も乗り継ぎ、三日前、一年ぶりにトドラ渓谷に帰ってきた。ロバを運ぶとなると通常、数万円はかかるはずだが、驚くべきことに、車はすべて警察が無料で手配してくれた。
 今年一月から三月にかけて、私はトドラ渓谷で遊牧民の家族と生活をともにした。今回ここに戻ってきたのは、この家族にロバをプレゼントするためである。

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(疲れて歩けないときは伏せをしてわたしにアピールする)
 ロバとの別れが寂しくなってきた。一緒に歩いているとき、言うことをきかないこいつに毎日のように怒りを爆発させ、「死ねボケえ!」「カスがあああ!」などと叫びながら棒で叩き、 尻を蹴り上げてきた。隙あらば道草を食おうとするし、急に立ち止まったり、メスの尻を追いかけて 、あさっての方向に走り出したこともあった。むかついてケツを棒で思いっきり叩いたら、おならを プスプスとふかしたりする。日本 の友人に写真を送ると「かわいい」とか言うけれども、そんな感情はほとんど抱いたことがない。だが、今になって、私はなぜあんなに毎日怒っていたのだろうと思う。一昨日は川でシャンプーで洗ってやったのだが、なされるがままに水をかけられてふてくされる様子や、アスファルトを歩く蹄の音、草をうまそうに食む姿などを見ると、今はかわいいなあという感情が芽生える。マヌケなロバではある が、思えばこいつがいたからこそ 私は千キロ以上の道のりを歩き通せたのだ。
 昨日になってようやくロバの名前が決まった。「アイシャ」である。昨日、同じ宿に泊まっている日本人旅人が私のロバを見て「 これが太郎丸君の愛車ですね」と言ったのがきっかけだ。モロッコでアイシャというと、ベルベル人女性によくつけられる名前である。このロバはオスではあるが、面白かったのでアイシャを採用した。ただ心配なのが、これからプレゼントする遊牧民家族にアイシャという女性がいることだ。彼らがこの名前を採用するかどうかは分からない。