モロッコ遊牧民探訪記

遊牧民との生活。ロバとの旅の記録

12日出発。ルート変更

 ようやく航空券をとった。今月12日関空発、翌朝バルセロナ着。早朝モロッコのフェズに飛ぶ。当初は大西洋側のアガディールでロバを買いアトラスを東に縦走する計画だったが、ロバとともに海抜0メートルから標高2,3千メートルまで上るのは難しそうなので、フェズの200キロ南にある標高1500メートルのミデルトから出発することにした。ミデルトはミドルアトラス山中の町で、まあまあ規模が大きい。ロバが簡単に買えるだろうし、家畜市も開かれている可能性が高い。ミデルトを出た後は、標高2200メートルのイミルシルを目指す。そしてトドラ渓谷、ダデス渓谷、ティシュカ峠、イムリルなどを経て、タルーダントへ。アンチアトラスに入り、タフロウトを抜けて大西洋側に出る―――というのが今のところの予定ルートだ。

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アトラス縦走の予定ルート

(注:アトラス山脈日本アルプスのように北からミドルアトラス、オート(ハイ)アトラス、アンチアトラスと三つの山脈が連なっている)

 モロッコをロバで旅した人は過去にもいて、最近では春間豪太郎さんがトドラ渓谷から地中海側のタンジェまで旅して出版した本が話題になった(「行商人に憧れて、ロバとモロッコを1000km歩いた男の冒険」)。ほかには、米国のジャーナリスト、ジェフリー・テイラーさんが2002年にオートアトラスを2カ月かけてラバ(ロバとウマのミックス)と徒歩で縦走し、「モロッコベルベル人」と題した記事をナショナルジオグラフィックに投稿している(2005年3月号)。私の今回の旅はどちらかというとテイラーさんに触発された面が大きいが、最大の目的はアトラス山中で暮らすベルベル人の文化や暮らしを記録すること。もう一つは、大自然の中で歩くことに没頭すること。

 今回歩くのは、ほとんどが舗装されていない道路(ピスト)だ。グーグルマップやマップスミーでモロッコ地図を詳しく見てみると、道路がないところに集落の名前だけがぽつんと載っていることがよくある。そうした集落を結ぶ「幻の道」を歩きたい。実は初めてのモロッコ旅行でも、地元民さえ歩かないようなピストに足を踏み入れたことがある。そのときは自分がどこにいるのか分からず軽くパニック状態に陥った。でも、そんな場所にも遊牧民が暮らしていて、ああ彼らは本当にたくましいなあ…と自分にはない、生きる力みたいなものを強く感じたのだった(詳しくは「峡谷地帯を歩く」 )。たぶん、あのときの感動があまりに大きかったから、このような旅を思いついたのだろう。

 テイラーさんには気になることを事前にメールで質問した。最も知りたかったのは、どのようにルートを選択したかということだった。記事にある地図を見ると、テイラーさんはオートアトラスを完璧に縦走している。しかし、一本道があるわけではないので、地元民しか知らないピストや、あるいは尾根伝いを歩いたときだってあったにちがいない。テイラーさんからの返事は、思ったとおり、地元のベルベル人ガイドを雇ったというものだった。私にはそんな余裕はないから、手さぐりでルートを探さねばならない。

 参考になったのが、英国アマゾンから取り寄せた「THE HIGH ATLAS」という本だった。著者のHAMISH BROWNさんはスコットランドの写真家で、この人は北極からヒマラヤまで世界の高峰を登ってきた人だが、とりわけ気に入っているのがモロッコらしい。彼は30年以上、毎年のようにアトラス地域を訪れている。「THE HIGH ATLAS」はアトラスの山々を登るためのガイドブックであり、断片的ではあるが詳しい地図が載っている。この本を基に旅のルートを作ってみたが、すべての標高が分からないので、実際に行かないと歩けるのか分からない(ロバが歩くには厳しい登山道の可能性もある)。あるいは、もしかしたらロバではなくラバを買うかもしれない。ラバはロバより体が大きくて力も強く、アトラス最高峰のトゥブカル山(4165m)を登るツアーでも、荷物を運ぶのはロバではなくラバらしい。

 アトラス縦走自体は、長くても三カ月を予定している。いま一番心配しているのは、バルセロナでロストバゲッジすること。私はこれまで乗り継ぎ便を利用したときは6回中3回ロストバゲッジに遭っているので、心づもりはできているが、バルセロナの後はモロッコに飛ぶため、実際に起きるとかなり面倒なことになる。それから、雪も心配だ。モロッコの雨季は冬なので、雨に濡れることはある程度覚悟している。しかし雪だけは困る。今年1月も私は標高2400メートル近いサガロ山中で大雪に遭い、奇跡的に見つけた一軒宿がなければ雪に埋もれて窒息死していた可能性もあった。もちろんロバやラバにとっても雪は歓迎されるものではなく、大雪のせいでロバが10頭死んだという遊牧民もいたくらいだから、天候にだけは注意を払いたい。

 ブログをリアルタイムでどれだけ更新できるかはまだ分からない。