モロッコ遊牧民探訪記

遊牧民との生活。ロバとの旅の記録

初めてのモロッコ②自転車はたのし

 モロッコを自転車で旅するのは楽しかった。

 テトゥアンを出発した私は、リーフ山脈の麓にある青の町シャウエンを経て、古都メクネスを目指した。日本人にとってモロッコといえば、砂漠=乾燥した大地というイメージが強いと思う。だが、北部は地中海の香りがほんのりする、緑あふれる土地だった。山の裾野にはミカンやブドウ、オリーブ畑が広がっている。ミカン畑の前で屋台を出し、まさに獲れたてのものを山のように積み売っている人たちもよく見かけた。値段はもちろん1キロ2DH(約22円)。袋にたくさん詰めてもらい、頬張りながら自転車を漕いだ。

 自転車旅の醍醐味を、私はこの国に来て初めて知った。彼らはとても人懐こい。子供たちははにかみながらも笑顔で手を振ってくれるし、途中立ち寄ったカフェや宿では、店主がいつも優しくて温かい声をかけてくれた。「どこから来たんだい?」「ようこそ、モロッコへ」「よい旅を」と、そんな簡単な会話だが、心から歓迎してもらっていることが伝わってくる。中には思わず噴き出してしまうくらい大げさに手を振ったり、応援してくれたりするお茶目なモロッコ人と出会うこともあり、温かい気持ちになった。

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 もう一つ嬉しかったのは、モロッコでは、田舎でも安宿や食堂を見つけることに苦労しなかったことだ。1泊40DH(約440円)から個室に泊まることができ、30DH(約330円)あればレストランで腹いっぱい食べられる。

 また、モロッコには必ずカフェがあった。スペインではどんなに小さな町でも必ずバルがあるように、ここにはカフェがあるのだ。私は、見かけるたびに水の補給も兼ねて必ず立ち寄ることにしていた。そしていつも、焼きたてのパンと、新鮮なヤギのチーズを注文するのだ。モロッコはかつてフランスの植民地だったこともあり、パンがとても美味しかった。

  シャウエンから2日かけて辿り着いたメクネスも、活気のある町だった。広場では薬売りやヘビ使い、馬車や屋台でごった返し、夜になると、やはり町中の人間が繰り出しているのではないかと思われるくらいの人出で、祭りのようなにぎわいを見せた。だが、そのころ私は自転車でひたすら前に進むことに快感を感じ始めていて、1日で街を出た。目指すはサハラ砂漠――。それは、この国を東西に貫くアトラス山脈を越えれば見えてくるはずだ。<続く>