モロッコ遊牧民探訪記

遊牧民との生活。ロバとの旅の記録

ノマドQ&A

 村に下りてきたとき、私の噂を聞いた日本人らから「ノマドってどんな人たち?」「普段何してるの?」などと聞かれることが多い。中には別の宿からわざわざ私を訪ねてくれる人もいる。こうした反応は、意外だった。というのも、私がやっているのは、ほとんどの人には興味を持ってもらえない、かなりマニアックなことだと思っていたからだ。それを物語るように、このブログを立ち上げてから2カ月以上たつが、1日の訪問者はいまだ一桁の日がほとんどだ。

 日本ではノマドについて学ぶ機会はないから、イメージがしづらいらしいようだ。それに私たちは定住農耕民族なので、ノマドは正反対の存在といえるかもしれない。ここでは、よくある質問に対して、トドラ渓谷の体験などを元にQ&A方式で答えてみたい。

※このページは随時更新します。

 

Q ノマドとは

 家畜(羊や山羊など)の放牧で生計を立て、定住地を持たず、草を求めて季節ごとに移動する人たちのこと。しかし、実際には「季節ごとに移動するノマド」と「移動しないノマド」がいる。この違いについては後日別に記事にしたい。なお、ノマドは英語で遊牧民という意味だが、ベルベル語では「アラハル」と呼ぶ。

Q ノマドの人口は。どこにいるのか

 モロッコの公式統計を公表する「高等計画委員会(Haut-Commissariat au plan)」によると、2014年時点で25,274人。2004年は68,540人だったから、この10年で大幅に減っていることが分かる。ノマドが多い地域はティネリール(Tinghir)やザゴラ(Zagora)など5州を擁する「ドラア・タフィラルト地方」(61%)。次に西サハラのタンタンやゲルミンなど4州を擁する「ゲルミン=オウィド・ノウン地方」(21%)。

Q どうやって移動するのか?

 近場に移動するときは徒歩で。ロバにテントや毛布、鍋などの日用品を載せ、何十頭もの羊や山羊と一緒に歩く。離れた場所に移動するときは運送業者のトラックに家畜を積んで移動する場合が多い。費用は聞く人によってばらつきがあるが、ノマドにとって決して安い金額ではない。例えば高アトラスのアグダル(Agoudal)のという町の元ノマドによると、直線距離で130㌔離れたサガロ(Saghro mountain)に移動する場合、160頭の家畜を運ぶのに2000DH(約2万4千円)かかる。

 英国人がサハラからアトラスに移動するノマドと4日間行動をともにしたという英文記事がネット上で読める。

http://www.telegraph.co.uk/travel/destinations/africa/morocco/articles/Morocco-walking-with-Berber-nomads/

Q ノマドは何語を話すのか

 アトラス山中のノマドベルベル人なので、ベルベル語を話す。モロッコ公用語アラビア語ベルベル語だが、観光業についている元ノマドを除いて、彼らはベルベル語しか話せない(学校教育を受けていないため)。サハラ砂漠にはベルベル人のほかにアラビア人のノマドがいる。彼らの母語アラビア語だが、ベルベル語も少し理解できるようだ。

Q どんな生活をしているのか。自給自足しているのか

 自給自足ではない。家畜を売った金で野菜や穀物、器具類などを買う。絨毯に使う毛皮や肉は自給する。男性の仕事は放牧とスーク(市場)への買い出し。女性は水くみや洗濯、絨毯織り、食事の支度など。午前6時ごろに起き、午後8時ごろ寝る。

Q なにを食べているのか

 パンは毎日焼く。ほかにタジンやスープ、特別な日はクスクスが出る。水は2日に1回、往復6時間かけて渓谷まで汲みに行く(夏は毎日)。

Q ムスリムなのか

 ムスリム。私がホームステイした家族でも、アハマッドは1日5回、イハルフは2,3回、メッカの方角に向かって礼拝していた。酒は飲まない。死後は土葬される。

Q ホームステイ中、私は何をしているのか

 男性の仕事、つまり放牧やスークへの買い出しに同行させてもらったり、子どもたちと遊んだりしている。あるいは一人でほかのノマドのテントを訪ねたり、周囲の山をトレッキングしたりして過ごしている。

Q 私はどこで寝ているのか

 テントを持参し、岩穴の近くに張らせてもらっている。夜は氷点下まで下がるが、寝袋と毛布2枚で何とかしのいでいる。