モロッコ遊牧民探訪記

遊牧民との生活。ロバとの旅の記録

初めてのモロッコ①マラケシュを目指す

 マラケシュに行こうと思った。

 そのとき私はポルトガルの首都・リスボンにいた。マラケシュといえば、これまでにすれ違った旅人からいろいろな感想を聞かされていた。話題の中心はいつもフナ広場だ。曰く、「あそこに行けばモロッコの全てが味わえる」。また曰く、「国中の暇人たちと出会える」。私は本でしか読んだことがないが、私がイメージするフナ広場とは、だだっ広い空間でヘビ使いやサル使いが一日中、笛太鼓の囃子に合わせてチョンチョンと腰を振り続けているような場所だった。私はそこで、日がな一日、ヘビ使いの見世物を見たいと思った。

  その場の思いつきで中古自転車を40ユーロで買い、スペインの南端・アルヘシラスへ。早朝発のフェリーでジブラルタル海峡を越え、その日のうちに辿り着いたのが、テトゥアンという町だった。

 あのときの興奮は今も忘れない。

 迷路のように入り組んだ狭い道の両脇に並ぶ、無数の露店群。野菜、果物、雑貨、靴、時計、金属・・・その数、千、いや万にも達するのではないかと思わせるほどの賑わいだ。日が暮れるころ人出はピークに達し、すれ違うたびに肩がぶつかり合う。観光客の姿はなく、地元の住民ばかりのようだ。声をかけてきた店の主人に、今日は祭りなのかと聞くと、毎日のことだという。そう、ここでは毎日が祭りなのだ。

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 道路を埋め尽くすほどの古着の山を漁る女たち。奥まったカフェでは男たちがマリファナを吸っている。一際目につくのが、みかんだ。路上のあちこちに山のように盛られたそれは、1キロ2DH(約22円)。あまりの安さに立ち止まると、店主から「いくらほしいんだ?」と声がかかる。客は袋にどんどん詰めて持ち帰っていく。食べてみると、日本と同等か、それ以上に甘かった。焼きトウモロコシは一本1DH(約11円)。ほかにも、ミニトマトは1キロ4DH(約44円)、イチゴは20個ほどの大粒がパックになって6DH(約66円)といった具合だ。

 中には壊れたおもちゃや何に使うのか不明な充電コードなどガラクタを地面に並べてる男もいる。別に売れなくてもいいらしく、単に「暇だから売っている」という感じだ。試しに傷んだサングラスを指差すと、「2DH」という。「ならいい」とそのまま通り過ぎると、慌てた主人が「いくらなら買うんだ」と追いかけてくる。いや要らないんだと断っても、よっぽど暇なのか付きまとって勝手に町のガイドを始める。そして最後にはチップをねだってくるのだ・・・。

 モロッコはなんて豊かで活気ある国なんだろう。私は期待に胸を膨らませながら、マラケシュ目指して自転車を漕ぎ始めた。<続く>

★管理人は2016年4月から17年7月末にかけて、モロッコをはじめ南米や欧州などを旅しました。不定期でその模様を報告します。